ニューイングランドの風Ⅻ「高鶴元展」

 心待ちしていた先生の作品展が、
今秋も11月4日から10日まで新宿小田急デパートの
美術画廊で開かれています。
例年は展覧会の後、お正月をご郷里福岡で過ごされた後、
ボストンへ戻られ、彼の地で制作に勤しまれると伺っておりました。


 ところが今夏は日本にご滞在のご様子を知り、
不思議に思っておりましたところ、
秋口に頂戴した展覧会のご案内状からその理由を知りました。
先生は春にメニエル氏病を発症され、二ヶ月間のご静養の後、
ご帰米をお考えの矢先に奥様の右手首複雑骨折という
ご災難にみまわれ、お二方がお元気になられ、
制作に向かわれたのは夏の終わりでいらしたと記されており、
たいそう驚きました。 
制作期間が僅か2ヵ月という状況下でさえ
例年通りに展覧会を開かれる先生の凄さを改めて思いました。


 会場の入り口には久しぶりに先生のシンボルカラーの
赤い壺がどっしりと据えられています。

それを拝見して「ああ先生はお変わりなく、お元気」
と、少し緊張が解ける思いがしました。
一歩踏み入れば、展示室は輝くような明るさにみたされ、


目にも心にもまっすぐに飛び込んでくる光のようなものが
あります。


 私たちがお邪魔させて頂いたのは展覧会初日の午後
でしたから、お客様はひっきりなし、お立ちになったまま
次々とお客様に応対していらっしゃる
先生は、赤いセーターに赤いスニーカー姿で、
遠目にも艶々としたお顔色、お元気さに溢れて、
お疲れの片りんもお見受けしませんでした。

 少しお人が引いた後に、ご挨拶をさせて頂き、
短期間での展覧会へのご準備の工夫、ご苦労の一端を
伺わせて頂きました。
既に出来ていた素焼きの作品を、お嬢様がボストンから
日本へと送られ、日本でご活躍のご子息様の窯で仕上げを
なさったとのことです。


お大変さは微塵もお見せにならず、
「かえって元気になりました」とおっしゃる
先生に、
やはり偉大な方は、我々の想像を遥かに越える、
強靭な体力、精神力をお持ちなのだと、
感動しながらお話を伺いました。


 右手首を痛められたと伺う奥様も、
壁掛けの花入に色鮮やかな花々を力強く、生き生きと
活けこんでいらっしゃいました。


それが器と見事に調和して得も言われぬ色彩と力の
ハーモニーを描き出しています。
先生、奥様、そして内から光を放つような作品から、
沢山のエネルギーを注ぎ込んでいただい心地です。


 御作の写真を自由に撮らせて下さる先生のご厚意に
甘えて、シャッターを押し続けましたけれど、
本当はとても無礼なことだったのではないかとの思いが
後から私を苦しめました。
シャッターを押している間は、魅せられてただ夢中、
心に全く余裕がありませんでした。
日本の展覧会ではどの会場でも写真撮影は一切禁止、
ボストンでは「フラッシュは禁止、撮影は自由」
だったことを思い出します。
先生のお考えをもう一度お訊ねせねばと思っています。


 どんなに欲したとて、先生のお作の色が出せるわけも
ありませんけれど、先生のお作の凄さを、
ほんの僅かでもお伝え出来ましたらと願い、
数点アップさせて頂きました。