四温の雨

 雨音で目が覚めました。
予報通りに一日中雨が降り続いて、
これが明日まで持ち越すとのことです。
潤いが充分に行き渡って綻び始めた紅梅が、
雨に滲んでいます。
海棠も可愛い花芽を見せ始めました。


 このところ「着物と帯」にちょっとのめり込んでいます。
そのきっかけは、
友人から訪問着と附下の柄行の違いについて尋ねられたこと。
それにきちんと答えることが出来なかったのです。
帰宅してすぐに箪笥の中から訪問着と附下を取り出し、
茶室いっぱいに広げて、丹念に柄行を見較べました。
着物を着ることは数ありましたけれど、
柄と縫い目との兼ね合いなどを、細部まで見たのは初めての
ことでした。勿論答は直ぐに見つかりました。
 でもそれで終わりではなかったのです。
箪笥の中に眠っていた着物たちが、
懐かしい香りと共に、懐かしい事々も運びだしてきました。
そのままには出来なくなって、
その翌日から箪笥と長持の大整理。
足かけ3日ほどその世界に浸っている内に
大切なことを山ほど思い出しました。


 姑が20歳の頃、その身に纏った訪問着。

同じ年頃の私の訪問着。

並べて眺めていると、着物たちが語りだすのです。
忘れかけていたあの人のこと、この人のこと、
ちち(舅)が語ったはは(姑)のこと、
ははが語ったちちのこと。
人の身を包んだ衣は、その人の歴史をも包んでいるのですね。
今私の茶室では、
時を遡って目覚めた着物たちが、さんざめいているのです。