9年前の8月の日々

 台風一過とはいかない夏台風11号、のろのろと彷徨っています。
空はどんより、猛暑の後遺症で庭に華やぎの彩りがありません。


 夫が旅立って9年の月日が過ぎました。
昨年の今日は、母の新盆のために、
一昨年は、入院中の母の看病のために、信州にいましたから
この日は彼の地で息子と過ごしておりました。
今年は3年ぶりに、家で夫と語らって過ごします。
濃いピンクが好きだった夫に花壇のペンタスを摘んで活けました。

私にもよくこの色のTシャツや、ゴルフウェアを選んでくれました。
旅立つ一か月前の私の誕生日に、
花屋で選んでくれた薔薇の花束もこの色でした。

 我慢強い人でした。
愚痴をこぼさない人でした。
辛いという言葉も、病を恨む言葉も聞いたことがありません。
睡眠不足の私に、「少し寝て下さい」と苦しい息の下でも
思いやる心を持った人でした。
旅立つ日の近いことを知っていた彼は、私に
「淋しい思いをさせてごめんなさい」と謝まりました。
生への絶ち難い思いを口にせず、
耐え難いほどの苦しさを抱えながら、
自分の事には触れませんでした。 
「僕の人生しあわせだった、良い想い出だけ持って逝きます」
とも言っていました。 
そして旅立つ日の前夜「次に生まれた時も、
るり子と一緒に過ごしたいな」と微笑んでくれました。
これらの会話は、筆談です。気管切開をして喉に穴のあいていた夫は、
声をほとんど失っていましたから。
でも彼のこうした言葉が記されているノートは、
私の手の中に遺されました。


 東の部屋が今は夫の居間、飛びっきりの笑顔の写真と、

夫の言葉が記されたノートが、私を支え、見守ってくれています。