蝉の声と虫の音と

 雨戸を繰ればまだ明けきらぬ空から
ミンミンゼミの合唱が降ってきます。
油蝉がすっかり鳴りを潜めました。
足元からかすかな虫の音も聴こえて、
季節が動いている様が伝わります。


 憧れの瑠璃色梅瓶(メイピン)をようやく
目の当たりにしました。

瑠璃色は思っていたよりも控えめで、茄子紺に近く、
深みのあるしんと沈んだ色合いでした。
英語の説明にdark purpleとありましたが、瑠璃色を
言葉で表現するのは難しいですね。

メイピン:今この形に捉われ続けています。
ご覧のように口は小さく、張り出した肩は丸く滑らか、
そこから一気にやわらかい曲線が流れて
裾はすっきりと細くまとまっています。
この優美な姿の虜です。
憧れ続けて、追いかけ廻して、
作品の前に佇んで過ごします。
今日観たのは「明・清 陶磁の名品」の中のもの。
出光美術館での展示です。
中国磁器の私の好みと云えば、
色は瑠璃、釉裏紅(辰砂)そして逭花(染付)、
形は壺、瓶、大皿と限られています。
五彩のように華やいだものや
凝った形のものにはあまり関心がありません。
梅瓶は全部で3本ありました。
後の2点はいずれも逭花。

一つには牡丹が他方には人物文が
精巧な筆使いで描かれた、明の官窯からの作品でした。
釉裏紅のものは水注、鉢など数点ありましたが、
紅がきれいに発色しているものは、
残念ながらありませんでした。
明朝前期という時代のせいかもしれません。
官窯、民窯が比較する形で展示されていましたが、
権力と財力に支えられて、官窯の染付の彩りの冴え、
筆の巧みさは圧倒的でした。選りすぐりの職人の手に
成ったものなのでしょうし、
極度の緊張を伴って制作されたものなのでしょう。
民窯には自由奔放さと才気と粗さを感じました。
やきもの好きな友人も、お気に入りの染付大皿との
出会いがあったようです。


 夏掛けの茶室の設えのある休憩室で、冷たい麦茶片手に一休み。
大きなガラスの窓越しに、ぼんやりと皇居を見下ろしながら、
瑠璃色梅瓶の余韻に浸りました。