山茶花

 3時過ぎ、学校から帰って、
少し陽が傾きかけた庭に出ました。
道から庭を見上げた時、山茶花
満開なのに気付いたからです。
家の中からは見えにくい庭の隅に、
ひっそりと咲く一重の山茶花は、
あまりに控えめなので、見過ごしてしまうことが多いのです。
 何が起ころうとも、自己主張することもなく、
淡々と自分の営みを続ける花達の逞しさ。
物言わぬ花達が殊更いとおしく、好ましく思えるのは、
電車の中での出来事と関わりがありそうです。
「年寄りに席を譲らないのはけしからん」
「立っていられないなら外には出るな」から始まった
言い争いは、
夫々の思いが募るらしく、エスカレートして、
周りはなす術もありません。
皆の注視に耐えかねたのか、
若者が捨て台詞を残して、蹴るように席を立っていき、
事は納まったかに見えましたが、
辺りの空気は固まったまま。


 白と淡いピンクの山茶花が咲き揃っておりました。

透けるほどに薄く繊細な花を見上げている内に
硬い気持は溶けて流れました。


 あのちょっと頑固そうなおじいちゃまと
少し乱暴な物言いの若者も
花でも眺めてみると良いのになあと思いました。
きっと自己嫌悪に陥っているのでしょうから。