慈雨

 朝から本格的な雨となりました。
でも気温は8度ほどあったようで、雪にならないのですから
ありがたいことです。
植えたての花達、一線から退いて養生している花達、
そして葉芽、花芽が育ち始めた木々にとっては命を元気にする
恵みの雨だったに違いありません。
季節が大きく春に向かって、一歩を踏み出したようです。


 空が重くても、少しも気にならずに出かけました。
とても会いたいやきもの達が、すぐ傍に居るのを知っていましたから。
ミッドタウンの中、サントリー美術館での「東洋陶磁の美」展。
会いたいやきものの1は梅瓶(メイピン)、2は天目茶碗、3瑠璃釉の器、
4辰砂釉の器。
友人とは乃木坂で落ち合って雨の中を少し歩きました。
身を縮めて急ぎ足の季節はもう過ぎておりました。
雨、ウイークディですから会場は観たいものが自分のペースで観れる
ゆとりがありました。
 中国陶磁器、韓国陶磁器と区切られた会場を、リストを見ながら
お目当てのものを選んで丹念に見るといういつもの鑑賞方法で
進みました。
展示品は、両国合せて国宝2点を含む140点ほどとのこと。
 その中の私の目当ては、梅瓶は10点ほど、天目茶碗2点、瑠璃釉薬2点、
辰砂、釉裏紅合せて6点。勿論会場にあるものは全て観ましたけれど。
梅瓶を一所でこれほど数多く見られるのは珍しいことです。
中国、韓国双方の梅瓶がありましたけれど、
私が好きな口が小さく、首が細く短く、肩が大きく張り出して
滑らかな曲線が裾まで一気に伸びる形は、多く韓国のものに見られ、
中国のものとは曲線の変化の妙、形の優美さなどに違いがあるように
思いました。
勿論、時代、窯によっても異なりますから一概には言えませんけれど。


 今日、会うのを楽しみにしていて、
「会えて良かった」と心底感じたものがたくさんありました。
例えば、
梅瓶では
・黒釉刻花牡丹文梅瓶:中国磁州窯 北宋時代(11〜12世紀)

器に白釉をかけ、その上に黒釉を施し、黒を書き落として模様を
浮き上がらせています。その潔い線、削り、パワーがほとばしり
出て、豪快でした。

青磁鉄地象嵌柳文梅瓶:韓国 高麗時代(12世紀) 窯は不明。

こちらは、青磁に鉄釉を掛けて、柳の部分を掻き落としたのだと
思います。こちらはとても洗練されたおしゃれな印象を受けます。
作風は大きく異なりますけれど、どちらにも強烈な個性と、
とらわれない奔放さ、広やかさを感じました。


茶碗
・国宝油滴天目茶碗: 中国南宋時代(12-13世紀) 建窯

・木の葉天目:中国 南宋時代(12世紀) 吉州窯

今までに何回観たか知れません。
その都度この怪しいばかりの煌めきに心が騒ぎます。


瑠璃釉の器
・瑠璃地白花牡丹文盤 中国 明時代(15世紀) 景徳鎮窯

この器は始めて観ました。瑠璃釉の碧の深さ、白との対比が
鮮烈でした。

 中国の釉裏紅、韓国の辰砂共に残念ながらその良さが、
私には分かりませんでした。
かって台北で観た雍正帝(18世紀)時代の辰砂の鮮やかさを、
時代を無視して期待したことに無理があったようです。


 本当に堪能して外に出ましたら、1時を回っていました。
3時間近くやきものと語らっていたことになります。
目の前のリッツカールトンの最上階で昼食。
雨が上がって、少し明るくなってきた空に、
3か月後にオープンを控えたスカイツリーが霞んでおりました。