翠のそよ風

 日毎に若葉が色を増していきます。
葉を広げたばかりの瑞々しいみどりが、さやさやと風に揺れるさまは
あまりになよやかで美しく、きらきらと陽射しに映えるさまはまぶしく
魅惑的、若い葉の表情は千変万化、見ていてあきません。

幼い葉が生まれ、初々しい少年の時を過ぎ、
今は青年の時期に達しているようです。
濃い葉陰に頼もしさを感ずる頃は、もう夏の気配も濃くなっていることでしょう。
今日は気温も上がって、半袖の腕に風が快く感じられました。
空が美しい日が続くと、心も元気で充たされます。


 今日セザンヌを観てきました。
掌に乗せたら転がり落ちそうに見える林檎、ごつごつした岩の立体感。
セザンヌのあのものの重さや感触が伝わるような厚みと迫力が好きです。


 千代田線乃木坂の改札を出て6番出口に向かうと、同じ方向に進む
長い人波が出来ています。国立新美術館に向かう列です。
3月から6月まで4ヵ月もの会期がありながらもこの人出、
セザンヌの人気の高さに驚きます。
当然のことながら会場の絵の前は十重二十重の人垣です。
88点の絵が、初期、風景、身体、肖像、静物、晩年と分類され、
色彩も構図もテーマも変化していく様子がよく分かる構成になっていました。


 でも私は、初期、身体、肖像はあっさりと観て、
セザンヌを感じる(私が)
白をふんだんに加えた色調やあの独特な緑色、オレンジ、
果実の、見えない後ろの曲線まで感じられる立体感、
サントヴィクトワール山の飛び出してきそうな岩の迫力、
そうしたものが画面に溢れるている絵をたっぷりと時間をかけて堪能しました。
特に果実を。その中でも特に好きな絵は?と問われれば
迷わず揚げるのは「ふたつの果実」。

どっしりと手応えのありそうなまだ青い洋梨、熟したレモン、
香りまでが漂って来そうです。
「個人蔵」と記された、2号か3号ほどの小さな絵。
これが居間にあったらどんなにしあわせかしらと、
所蔵している方をちょっぴり妬みました。


 美術館の裏手に、中国名采「孫」があるからと友人に案内されて、
お昼はそこで摂りました。
狭い階段を下りると、ここも順番を待つ長い列。
シーフードと野菜中心のメニューは、大変結構でした。


 そのまま帰宅も惜しい気がして、もう一度美術館に戻り、
ウッドデッキでロシアンティを片手に取り留めのないおしゃべりを。
周りを囲むケヤキの大木の若葉が、風を受けてさわさわと触れ合い、
人を恐れない小鳥たちがデッキをちょんちょんと歩いていました。


 帰宅して間もなく、玄関のチャイムが鳴りました。
娘からの一日遅れの母の日の贈り物、

良い一日の素敵な仕上げとなりました。