朝焼けと秋雨と

 昨日は、朝焼けがとても美しかったのです。

「朝焼けが強い日は雨になる事が多い」と
天気報道官が言っていた通り、夕方から強い雨になりました。
でも心がとても充たされていましたから、
長いタクシーの列を雨の中で待つのも苦にはなりませんでした。

ワグネルソサイアティOBの定期演奏会で、

素晴らしい歌声を聴いての帰り道でしたから。


 友人たちと新宿で落ち合ったのは11時。
昼食を済ませて練馬の会場へ。
余裕を見たつもりでしたのに、
会場の練馬文化センターに着いたのは開演間際で、
大いにあわてました。
既に1階に空席は無く、2階の右手の席に陣取って周りを見回せば
2階も空席は僅かの盛況ぶりです。


 プログラムの最初は「東北六県心の民謡」
民謡は良いですね。最初から心を大きく開いて、何の構えも無く
聴くことが出来ます。私たちの心のゆりかごですから。
しみじみと哀愁にみちて、溌剌と元気にみちて、
湧き上がる喜びにみちて、
素直な表現と旋律が、そのまま真っ直ぐに聴き手の心に届きました。
力強く躍動感あふれる
最上川舟唄」、「斎太郎節」は
東北を元気づけるエールに聴こえました。


 「7つのスペイン民謡」は
皆さん白いシャツにオレンジや赤のスカーフを、
それぞれのアレンジで身に着け、なかなか粋でした。
珍しく譜面を広げている方が多くて、おやっと思いましたけれど。
カスタネットやタンバリンなどが加わって、
リズミカルに、時に情熱的に、時に哀調を帯びてと
変化に富んだ楽しい演奏でした。
ただ如何せん、私には歌詞がわかりません。
訳を読んでいると歌声と距離が出来てしまいますし。
その辺がちょっとジレンマでした。
歌われる方々の中にも、
心なしか少しためらいのようなものをお持ちの方もいらした(?)
ように感じられたのは、私の心の投影でしょうか。


「紗羅」、美しい詩が、磨き抜かれたハーモニーに乗った
すばらしい演奏でした。
詩はあらかじめ読んでおきました。
丁寧に選ばれた珠のような言葉の一つ一つが本当に麗しい。
舞台に並ばれた皆さんは全員暗譜、凛として見えました。
聴く側も少々緊張ぎみです。


枯れ笹に・・・、ドキドキするほどきれいな出だしでした。
あづまやの・・・すばらしく力強い響きでした。感情をぶつける激しさが伝わりました。
北秋の・・・ことばがメロディーに美しく添っていました。
最後の言葉「白き小さき北秋の花」は、
ひたすらやさしく情感に溢れていました。

「紗羅」の夢みるようなはかなさ
「鴉」のリズミカルな楽しさ、
「行々子」のしみじみとした哀愁
そして、「占ふと」から「ゆめ」へと、うねりは高まっていきました。
ハーモニーの見事さ、声の伸び、しみわたる清しい響き
そして「ゆめ」の結びは透明感にみちてきれいにしまりました。
私達の心に沢山の余韻を残しながら。
「ブラボー」です。


 私がワグネルOBの方達の歌声をこよなく愛するのは
豊かさ、あたたかさ、新鮮さ、真摯さにあるようです。
豊富な経験や研鑽から生まれるゆとりが、
きっと心の豊かさ、温かさに繋がり、
そこからゆたかでぬくもりのある歌声が生まれるのでしょうか。
そしてたゆまぬ練習を通して、常に新しい発見をなさり、
あのいきいきとした新鮮さを生み出していらっしゃるのでしょうか。
評価や成果に満足して胡坐をかくこともせず
更に厳しい練習に励んでいらっしゃる、その真摯さも
歌声の清々しさに繋がっているのでしょうか。


来秋の演奏会にはまた
目を見張るような美しいもの、爽やかなものを
歌声に乗せて聴かせて下さることでしょう。
楽しみなことです。