碧く澄んだ冬空に

 その朝は、
冬の空が悲しいまでに晴れ渡っていました。
庭のもみじは冴えに冴えて、

凛とした空気が私の周りを充たしていました。


 母が永久の眠りについたのは、きのうの朝のことです。
切羽詰まった義妹の電話に、ただならぬものを感じて、
来合せていた息子と共に、母の家へとかけつけました。
救急車が2台止まっていて、7~8名の救急隊員の方が
テキパキと母の周りで救命措置をして下さっていましたけれど、
母の頬にいつもの生気はなくて、
私の心の中に、ひたひたと諦めの思いが広がって行きました。


 北里大学救命救急センター
ここが母の最期の場所となりました。
「どうぞお入りください」と招じ入れられた治療室で、
母は眠っているような穏やかな顔つきをしていました。
9時44分、それが旅立ちの時でした。
苦しみが少なかったことを知らされて、心が少し安らぎました。


 それからの現実的な出来事、体と口だけが動いているような
心が止まってしまったような長い時間の流れ。
とても事務的な取り決めの数々。
そうした時の流れの中で、
母の眠る茶室を時々訪れます。
そして、いつもと少しも変わらず静かに横たわっている母に会い、
自分を取り戻します。
人の終わりの最後の最後の諸々の儀式が
執り行われようとしています。
いろいろな日程が決まって、
今日は花祭壇の花の種類と色の打ち合わせ、
そして通夜の料理の打ち合わせ、
連絡、連絡、れんらく。
これらの儀式を通過して、
ようやく静かな世界に入って行けるのですね。


 それらの全てが滞りなく済んで、
静寂が戻った時、
母は私の心の中に、静かに永遠に戻って来てくれるのでしょう。
今は心が、空っぼです。