忙中閑

 雨にたたかれて散った葉が道に張り付いて、
箒の先がすすみません。
紅葉した木々は、そのほとんどの葉を失いましたけれど、
咲き残る冬の花々はたっぷりの水と、
思いがけなく温かい空気に一気に生気を取り戻しています。
パイナップルセイジがとても勢いが良いのです。
そして白薔薇がまた一輪咲き始めました。
ほっと一息、心が寛ぐ一日でした。


 昼前に訊ねて来られたYさんは、Y県立美術館の専門学芸員
近々この美術館で開催予定の「S. M.展」に出展する絵を選ぶ仕事に
携わっていらっしゃいます。
遠い親戚筋に当たる我が家にもM.さんの絵が2点あり、
それをご覧になるのが来訪の目的です。
出展の是非は、先ず絵をご覧になって、検討して後の話。
グローブをして、丁寧に丁寧に絵を扱いながら、
絵の状態を丹念に観ていらっしゃる様子がとても興味深く、
傍にはりついて見せて頂きました。
 ライトで細かく点検するのは油絵の具の状態、
灯に照らし出されて、細かい亀裂が何筋も入っている様子を
見せて頂きました。
直射日光は当たりませんけれど、気温や湿度の影響はまともに受ける
ガラスカバーも無い状態の絵です。しかも何十年もの間。
油絵の劣化、額の傷などは意にも止めていませんでした。
裏を返して、この絵が1955年に描かれたことも知りました。
サインのS.M.はその時代だけのものとか。
それが高校生の夫が、Mさん宅にお世話になっていた頃と重なることに
気付いて、「ああ!」と思いました。
Mさんが夫にこの絵を贈って下さったわけは、そこにあったのですね。


 一枚の絵が物語る事々をYさんに解き明かして頂いたひととき、
今という時も事柄も遠のいて、ただ物語の中に浸っておりました。