涼やかな高原で(母の新盆)

 東京は猛暑の日々です。
朝から蝉の大合唱、それに混じって草叢からは虫の声、
繁りに繁った木々の陰からきらきらと陽射しが踊っています。
夏真っ盛りです。


 今年は母の新盆です。
法要は、お盆休みの混雑を避けて少し早めの8月10日にと
弟達と早くから決めていたのです。
場所は父の郷里、長野県諏訪郡富士見町の父方の菩提寺で。
ところが混雑を避けたつもりが大外れ、
10日には帰省ラッシュがもう始まっていたのです。
息子が中野を出たのが朝5時15分、
私をピックして中央高速高尾に到着したのが9時半、
乗った途端に相模湖で事故渋滞に巻き込まれました。
それを勝沼で抜け出してからは、覆面パトカーを警戒しながら
走って走って、目的地に12時2分前に到着しました。

法要は12時からとなっていましたから、
ぎりぎりセーフでしたけれど、お客様をお待たせする仕儀となりました。


 若い和尚さまはとても声が良く、説法がお上手です。
「集合写真を見る時に先ず誰を探しますか?」
の問いかけで始まったお話は、餓鬼道の話でした。
「先ずは自分を探すでしょう。
ことほど左様にたいていの人は自分のことをいつも第一に考える。
何が欲しい、何になりたいと自分にだけ目が向いている。
これが餓鬼に繋がります。
すなわち餓鬼の正体は、物欲や名誉欲といった欲そのものなのです」と。
人に目を向ける、人を認める、人を助ける、人に施す、
といった行為の大切さの教えなのでしょう。
「般若心経」を唱和し、新盆のお経を挙げて頂き、お参りをして、
お精進を戴きました。
和尚様のおかあさまのお手作りのお料理のおいしかったこと
懐かしかったこと、祖母の味を思い出しました。


 その後は参列して下さった皆さんとの昼食会。

続いて弟達の別荘でのお茶の会。
お人との和やかな集いが大好きだった母を偲んで、会話が弾みました。


 白樺湖を通り過ぎて女神湖、標高1200メートルの高台の
ホテルに着いたのは5時でした。
東京の暑さが嘘のような涼やかさ、幌を開けたオープンカーで
信号も車も無い林の中を走る心地良さを満喫しました。


高原のホテルはコロシアムイン。

コスモスが咲き乱れ、

白樺の葉が、さやさやと風に歌っていました。
大きく開けた窓の白樺越しに眺めた夕やけは

去年の同じ日、母と見た夕焼けと重なって、
私のかたわらには、たしかに母の気配がありました。