秋の日々は日毎に姿変えて

 今日は朝から細かい雨が止むこともなく、強まることもなく続いて、
しんと静かな一日でした。
心が何となく寂しいのは、お隣の木々の殆どが切り倒され、
大きなトラックで運び去られたせいかもしれません。
ずっとお留守の家、ご主人は亡くなられ、奥様は難病で入院中
二人の子さんは、遠方にお住まいです。
たまに様子を見に帰られるご長男が、雑草を駆除するために撒いた
農協の除草剤が庭全体に浸透して、丹精した木々を枯らしてしまったのです。
季節ごとに美しい花を見せていた梅も椿も山茶花躑躅さるすべりも全滅、
残ったのは金木犀と槇だけ、木陰から姿を現した石灯籠が所在無げです。

40年を経た住宅地は世代交代の時期を迎えて、見知らぬ方が多くなりました。


 昨日はうれしいことがありました。
「現代の名碗」展を観に出かけ、大好きな作家の素晴らしい作品に
何点も会えました。
例えば川喜多半泥子の端正な井戸茶碗、

加藤唐九郎の豪快な志野茶碗、

河井寛次郎の三色碗、

その他にも、荒川豊蔵、石黒宗磨、藤原陶陽、辻清明・・・・
綺羅星の如く天才の作品が並んでいます。
とても一回では納まり切れません。
心のウキウキ感を押さえられず、興奮を抱えたまま外に出ました。
菊池寛実、智美術館での出来事です。


 心がいっぱいに成っても、やっぱりお腹は空きます。
お昼は美術館のお隣のホテルオークラ「桃花林」に予約を入れておきました。
ここに来たら絶対にはずせないのが蟹の爪の揚げ物と北京ダッグ、
でもこの度は、
最初に取った前菜5種のためにダックは断念する事態となりました。

最近は感覚的な食欲と実際のそれとの間にずれが生じていて、
能力以上の注文をしてしまい「しまった」と思うことしばしばです。
でもぎっしり身の詰まった蟹の爪は最高でした。

食事の後はもう動けません。
しばらくの間ゆったりしたソファーに身を沈め、
満足感を反芻しながら、ぼんやりと過ごしました。
こんなに時間を贅沢に使えるのは、年齢を重ねてから後のこと、
ちょっとした事にも満足して、ちょっとしたことも楽しくて
いろいろなことが、有難く思えるようになりました。
年齢を重ねることも悪くありません。