ボストンの日々

2ヵ月になるかならぬ内から、年2回ボストン日本を行き来する
Noahは日本語が上手です。
学校では日本語クラスで、先生の助手を務めるとか、日本大好き
人間に育ちました。
2年ほど前から、成田での別れがとても大変になりました。
「僕帰りたくない」「帰るならNanaちゃま、一緒に来て」と
必ず一悶着、彼は8歳ですが、一人っ子、寂しがり屋の甘えん坊
です。
今年、年明けに成田での彼があまりにも悲しげで、
どうしても別れがたく、一旦出国ゲートを通過したのに、
もう一度ハグがしたいからと、
逆走してきて係員のお兄さんを大慌てさせました。
春に「今年はいつ行こうかしら?」と娘と相談するSkypeに割り込んで
来たNoah、「Nanaちゃま僕と一緒にボストン来て」ママの説得には
耳を貸さず、夏のボストンはNoahと同行が決まったのでした。
7月初めは日本はまだ夏休み前ですから、
心配した「席を並んでティケットを取る」は、いたって簡単でした。


着いてみれば、ボストンは彼の生活空間、日本のように私と一緒は
殆どなくて、ウイークデイはサマーキャンプ、
帰宅すればお友達と遊ぶことに夢中の日々、
私も自分の時間を多く持つことの出来る日々でした。


・ボストンでのハイライト1 Tanglewood  7月18日〜19日
急に思いついてボストン・シンフォニー・オーケストラが夏の間の
演奏拠点にしているTanglewoodに出かけることにしました。
ノアは父親に預けて、娘と二人で。

取ったホテルはThe Red Lion Inn 1783年創設の歴史ある、
人気のホテル、よくぞ部屋が取れたと思います。




たった一つ残っていたツインは、可愛い花柄の壁紙とカーテンの
居心地の良い部屋でした。

聴いたのは、ピアノ協奏曲第25 番ハ長調
交響曲第38番「プラハ
演奏者の前面に位置するセクション1が取れたのは幸運でした。
演奏者の表情、呼吸まで伝わってくる心地して、
演奏の楽しさもさることながら、その雰囲気に酔いました。


久しぶりのBSO、やっぱり最高でした。
ホテルに着けば11時半、まだやっていたレストランで夕食を。

時間を気にせず娘と寛ぐこうした時間は、何年ぶりだったでしょうか。
思い出に残る、素敵な夜になりました。


・ボストンでのハイライト2 北斎展 7月22日
以前から「Museum of Fine Art」いわゆるボストン美術館には
Noah抜きで行きたいと思っていました。彼をキャンプに送って
娘と出掛けた美術館では、アメリカ国旗と美術館の旗に守られるように、
大きな「HOKUSAI」の垂れ幕、

中に入ればエレベーターホール全体がHOKUSAI。

初めて見る情景でした。おまけに中は2000点もの北斎
版画、絵画、書、日本では見ることの出来ないものばかり。

部屋は現地の人と思しき人ばかり、不思議と日本人には一人も会いません
でした。北斎人気、日本人気に気分の良い思いをする一日でした。
明るいレストランで昼食を摂って、日本の仏像、陶磁器などの展示品と
天心の庭を眺め、大満足して、美術館をあとにしたのでした。


・ボストンでのハイライト3 Tanglewood 7月24日〜26日
この計画は、日本にいるときから準備していたもので、
今度はNoahも一緒です。ですから、出掛ける前は大変でした。
彼をキャンプでピックして、ギニー(彼のマスコットのモルモット)まで

伴っての旅行です。
ホテルは同じくRed Lion Inn 。部屋もペットの同居用を予約済、
リビング付の部屋に大満足のNoahは、

大きなソファーの中央に陣取って、テレビを独り占め、
旅先での母親の鷹揚さを見越していたのでしょう。
翌朝は皆でモーツアルトの練習風景を聴きに出かけました。
森の空気は清涼で、季節を忘れる気温です。
涼と楽を求めて、早くも駐車場はいっぱいです。

私は建物の中で聴きましたけれど、

じっとしているのが苦手なNoahは、芝生の上でレゴをいじりながら
聴いていたそうです。
夜のマーラー5番は開園時間の遅さ(8:30pm)と、
演奏時間の長さ故にNoahと娘は留守番、
終わるころを見計らって迎えに来てくれることになりました。
マーラー5番はたいそう人気のあるプログラムで、
会場の席が満席は勿論のこと、芝生の上もこの通り、

早くから来ての陣取りには椅子、テーブル、デイナー、ワイン
まで持ち込んでいる人もいます。音楽が多くの人に自然に浸透して
いるのですね。
終演後も大聴衆のためになかなか会えず、ずいぶん待たせて、
可哀そうなことをしてしまいました。
早めに来て待機していたので、一時間も外で待っていて
くれたのだそうです。涙が出るほど健気です。
心揺さぶられるような素晴らしい演奏を堪能できたのは、

すべてNoahや娘たちの協力のおかげでした。
その夜は興奮していたのでしょう、なかなか寝付けぬ夜となりました。

Noahは水泳が大好き、暇さえあれば、ホテルのプールで泳いでいました。
娘が達者ですから、
それを見習い潜水も7フィート出来るようになったとか。

プールサイドで、逞しくなったノアを眺めて、感慨がありました。
8年前の誕生の日のことを思い出していましたから。


長いと思った7月の日々は、瞬く間に過ぎていきましたけれど、
お客様ではなく、娘たちとの共同生活者としての日々は、
今までにも増して、色の濃い日々だったように思います。
Noahが成長したということがその大きな要因だったのでしょう。
空港でいつまでも見送ってくれるノアの

Nanaちゃまーさよならー」の声が、
いつまでも耳から離れない私でした。