紅卜伴を生けて

 春の日差しがたっぷりと戻って、コートのいらない心地良さ。
3月の「お茶を楽しむ会」は今日も盛会だった。
 紅卜伴と芽吹きがはじまったばかりの花筏の枝を、
母はほんの一瞬で生け込んだ。手許に少しの迷いもない。
染付徳利型の花入は、信州神戸(ごうど)の父の生家の
お蔵に眠っていたもの。
深紅の椿から漂いはじめたやわらぎが茶室を染めていく。
この珍しい椿は義妹の丹精が実ったもの。茶花はいつも庭からを
貫いてきた母の志は義妹になめらかに引き継がれた。
軸は「春草生」。

棚は三友棚(上段に梅の絵、上下の棚板は松製、柱は竹製、
松竹梅が一体となって三千家融和の証の由)。
水差は立鼓型(桃の節句に因んで)。
茶器は朱玉。
主菓子は菜の花

弥生の茶室は長閑さと華やぎに満ちて、
社中の皆さんの出足も軽く、早々と顔ぶれが揃った。
義妹が蛤の茶碗を運び出し、遠路お越しの方に薄茶を
点ててのおもてなし。
釜から真っ白な湯気が上がり、かすかに松風が聴こえる。
母の笑顔が皆さんにも映って、今日も茶室は温かい。