和菓子歳時記(三月①)

どら焼き
引き戸を開けてお店に入ると甘ーいやさしい香りに包まれます。

カステラに似た卵とお砂糖の焦げるような何とも言えぬ
おいしそうな匂い、どら焼きの皮を焼く匂いです。

お店が開くのが9時、お店が一番忙しい10時前後にお邪魔すると

この香ばしい空気に出会えます。

私が愛するお菓子の老舗「蛸八」さんの朝の様子です。

ご主人の今国さん、そしてお弟子さんで後継者のお孫さん、

カウンターの前でお客対応をするのは今国さんのお子さんたち、

一家総出でお店を支え、盛り上げていらっしゃいます。

かってはお客さん対応は奥さんが取り仕切っていらしたのですけれど、

2012年に一旦お店を閉じられた直後に亡くなりました。

その一年くらい後に、お店を模様替えして再開なさったのです。

私はお茶をやっています関係で、ずっと以前からお付き合いして
いましたから、お店再開のニュースを聴いて大喜びしました。

それからの日々、季節ごとの美しくおいしい和菓子は、
お茶の会には勿論のこと、普段でも必ず毎日頂くことにしています。

これから折に触れ、蛸八さんの季節の和菓子をこのページで、

「和菓子歳時記」としてご紹介していきたいと思います。


 どら焼きはどこの和菓子屋さんでもよく見かける品、
そのお店独特の手法があり、味があるものとばかり思っていました。

ところがその事情が今は様変わりしていて、
一括製造したどら焼きの皮を利用している店も多いとか、

蛸八さんは勿論一から自家製、
まことにまろやか、たっぷりゆたかなどら焼きです。

これは今日頂いてきたどら焼き、

中は粒餡、その中に栗も入っています。

まだ手にぬくもりが残るうちに家に帰り、
熱々のお茶と一緒に頬張りました。
あゝ甘露、カンロです。